新興市場における原子力の将来:オーストラリア


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オーストラリア、世界で6番目に大きなこの国は太平洋南西に位置し、オーストラリア大陸やタスマニア諸島、いくつかの小さな島々によって構成されている。オーストラリアには、1600年代に始まったイギリスとオランダによる大陸発見と入植までの約40,000年間、先住民が暮らしていた。1901年、6つの植民地が統合されてオーストラリア連邦となり、それ以来安定した自由民主主義政治システムを維持している。オーストラリアは今日、世界で最も裕福な国のうちの1つであり、2012年には世界第12位の経済規模を有し、一人当たりの所得は世界第5位となっている

オーストラリアは、エネルギー生産者として世界上位10位に入る国だ。大陸の長い歴史と地理的な多様性から、国内には大規模且つ多様なエネルギー資源がある。今日、オーストラリアの電力の約88%が化石燃料(石炭が74%、天然ガスが15%)から発電されている。同国の残りの電力は、太陽光や風力、バイオエネルギーや水力といった再生可能エネルギーから発電されており、特筆すべき水力発電(総発電電力量の6%)は1950年代から稼働している。

オーストラリアの膨大且つ安価な石炭資源と天然ガス資源は、同国にエネルギー安全保障と低廉な電力をもたらしている。最近、気候変動に関する懸念の高まりが、温室効果ガス排出のない原子力発電への関心を再度呼び起こしている。2007年には、ジョン・ハワード元首相が気候変動の影響を低減するための低炭素化手法として、原子力発電への支持を公に発表した。ハワード元首相の原子力推進の動きは、急速な国民の反対に遭い、2007年の総選挙で原子力反対を掲げる労働党に敗れた。

再生可能エネルギー目標や時間外の低炭素燃料への移行を促す税制上の措置といった対策を政府がとる中、2013年からは減少したものの、2014年にオーストラリアは5.426億トンの温室効果ガスを排出している。義務的な再生可能エネルギー目標は、2001年から大規模な再生可能エネルギー発電の導入を促進してきた。2010年に目標が引き上げられ、大規模な再生可能エネルギー発電所による発電電力量を41,000GWhへ拡大し、2020年までに国内の総発電電力量のうち20%を再生可能エネルギーでまかなうことを目指している。この目標は、太陽光発電や風力発電の設備を追加導入することで達成することが予定されている。温室効果ガス排出のないエネルギー源への新たな要請を踏まえ、2015年に南オーストラリア州首相のジェイ・ウェザーイル氏は、原子力発電における政府の役割を調査する王立委員会を導入した。

ウラン生産

オーストラリアは、世界最大のウラン埋蔵量を誇るとして知られ、世界の埋蔵量のうち31%が賦存している。オーストラリアは1954年からウラン採掘を開始し、2014年には5,897トンのU3O8(5,000トンU)を生産して、カザフスタンやカナダに次ぐ、世界第3位のウラン生産国となっている。1969年、大規模なウラン鉱床が環境問題に敏感な地域である北部のマウント・ブロックマンで発見され、先住民部族や、自然保護活動家、鉱山経営者、政府、環境保護主義者らの感情的な反応を引き起こした。これらの団体は、アボリジニの山に対する先祖や宗教的な主張をどのように守るのかや、ウランを採掘するのかどうかをめぐって議論をした。1977年、オーストラリアは、ウラン鉱山を囲む広大な地域をカカドゥ国立公園として保護するという政治解決を提案した。

国内の豊富なウラン埋蔵量にも関わらず、オーストラリアには稼働する原子力発電所が1つもなく、生産されたすべてのウランは、核拡散防止条約(NPT)を順守した海外の国における発電のため輸出されている。2013年のウラン輸出による売上は、北米(主としてアメリカ)が2,201トン(33.6%)、欧州が2,480トン(37.8%)、アジア(主として日本)が1,873トン(28.6%)であった。ウランは、オーストラリアのエネルギー輸出のうち約35%を占めており、2009年に輸出収入は11億ドルとなった。オリンピック・ダム鉱山の生産問題や、日本の需要をなくしウラン価格を低下させた2011年の福島事故の影響を受け、ウラン生産と輸出は減少している。

オーストラリアにおける原子力発電の見通し

オーストラリアは、原子力発電への転換を支援するに必要な多くの組織やインフラストラクチャーをすでに有している。国内の既存の天然ガス採掘システムやウラン採掘システムは、原子力発電計画を支援することができる重要な物理的インフラストラクチャーを提供している。オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)は、アメリカやフランス、日本、韓国、ドイツといった国々と研究開発の提携を行っており、現在は放射性薬剤塗布のための放射性同位体を製造する能力を有した、熱出力20MWのオパール研究炉を運転している。

また、オーストラリア保障措置・不拡散局(ASNO)とオーストラリア放射線防護・原子力安全庁(ARPANSA)は、ウラン採掘産業に関する世界的に認知された実績をもって、世界水準の保障措置と規制を行っている。

オーストラリアにおける原子力発電への課題

現在、原子力発電は1999年連邦環境保護・生物多様性保存法によって禁止されている。オーストラリア自由党が原子力発電開発を1950年代から推し進めてきた一方で、フランスによる太平洋での核実験とウラン採掘に関連する健康リスクに対する反対に刺激され、1970年代には強硬で実効的な原子力反対運動が起こった。当初、原子力反対運動は核不拡散とウラン採掘に焦点が当たっていたが、運動は、環境上の課題や原子力発電開発による経済的利益へ対象が広がった。

国民や政治的な反対に加え、オーストラリアには原子力発電開発を妨げる可能性がある、いくつかの法的な障害がある。ニューサウスウェールズ州には、1986年ウラン採掘・原子力施設禁止法があり、ヴィクトリア州には1983年原子力活動禁止法がある。連邦レベルでは、先述した1999年連邦環境保護・生物多様性保存法に加え、原子力発電の規制に対する禁止を含んだ1988年オーストラリア放射線防護・原子力安全法がある。

最後に、南オーストラリア州の採掘部門や製造部門が雇用喪失と景気後退に苦しんでいるタイミングで、2015年王立委員会が登場した。これは、同地域における原子力発電開発に向けた資金を提供するためのモチベーションを妨害するかもしれない。

オーストラリアにおける原子力発電の将来

オーストラリアは、気候変動への懸念が高まる中で、原子力発電に対する禁止を再評価する最中にある。オーストラリアのウラン埋蔵量のうち80%が賦存する南オーストラリア州は、原子力に関する包括的な報告書を近々公表する予定だ。当該報告書は、連邦政府の報告書によって補足される予定である。この歴史的な報告書は、原子力発電の経済的、環境上のチャンスを検討し、原子力に関する議論を再開することを約束し、政策変更の基礎を提供することになるだろう。

ウェザーイル州首相とトニー・アボット首相は、原子力に関する議論の再開に関心を示した。ウェザーイル氏は、「私はかつて原子力発電―原子力発電のすべての側面について反対してきた…(しかし)私は今これらの問題について広い心を持っている。」と述べている。アボット首相は、原子力発電を再考するのに気候変動は重大な理由となると述べ、原子力技術を「温室効果ガス排出のないベースロード電源として完全に証明された方法」であると説明した。

政府の寛容性に関わらず、国民の反対は蔓延しており、どんな原子力発電に関するイニシアチブも、この先、環境保護主義者の反対や法的な障害に直面することが見込まれる。