新興市場における原子力の将来:カナダ


この記事は、Forum on Energyの「新興市場における原子力特集」の一環です。他の記事についてはこちらをご覧ください。

 

canadaカナダは50年以上にわたって世界の原子力研究と開発をリードしてきた。しかし、政府の研究開発予算の削減や原子力の安全性に対する世論の懸念により、過去20年間は新規の原子炉建設と開発を停止してきた。運転停止時期の近づくカナダの原子力発電所は、低コストの化石燃料に取って代わられるようだ。

カナダの原子力産業と電力セクター

1942年にカナダ国家研究評議会(NRC)が、英国とカナダの共同研究所であるモントリオール研究所を設立し、世界で初めての重水炉の設計を行った。その後まもなく、1945年にNRCのチョーク・リバー研究所が米国外で初めて原子炉の運転に成功した。1971年には、初の商業CANDU(Canada Deuterium Uranium)炉がオンタリオ州ピカリングで運転を開始した。現在、31基のCANDU炉が世界7カ国で運転している他、インドには13基の「CANDU派生」炉が存在する。

チョーク・リバー研究所の成功を受けて、カナダ政府は国有企業のカナダ原子力公社(AECL)を設立し、原子力の平和利用に関する設計・開発・展開を行った。NRCは原子力の研究開発についてはAECLを通じて行い、原子力の規制はカナダ原子力安全委員会(CNSC)を通じて行うことを想定していた。今日、カナダ原子力産業は私企業と国営事業体(連邦と州)の混合で構成されている。現在、150以上の企業がAECL及び国営事業体に対して製品とサービスを提供している。

AECLはカナダの過去すべての原子炉建設を率いてきた。2013年からはCANDU炉17基が商業運転を続け、2基が廃炉され、3基が再建設された。加えて、カナダは12基のCANDU炉をエンジニアリングや運営技術と共に世界に輸出しており、韓国(4基)、ルーマニア(2基)、インド(2基)、パキスタン(1基)、アルゼンチン(1基)、中国(2基)等実績がある。

今日、カナダの電力供給の約15%が原子力によるものであり、13.5 GWの設備容量が存在する。2013年、カナダは総計6,520億kWhの電力を発電したが、うち1,028億kWh(15.8%)が原子力、3,915億kWh(60%)が水力、630億kWhが石炭、670億kWhが天然ガスだった。2013年の電力純輸出量は520億kWhであり全てが米国向けだった。また、カナダの原子力産業は世界の内科診断や殺菌、がん治療で使用される放射線同位体の過半数を生産している。

国際メンバーシップ

カナダは原子力の平和利用を扱う2つの主要国際機関:経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)と国際原子力機関(IAEA)の加盟国である。カナダはさらに、第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)と国際原子力パートナーシップ(IFNEC)の加盟国でもある。

歴史

カナダ初の原子力発電所となる原子力実証事業(NPD)はAECLとオンタリオ水力、カナダGEの官民連携協力により生まれた。NPDの20 MW出力の原子炉は1962年に運転を開始し、CANDU炉の本来の概念を体現する事に成功した(天然ウランを用いた運転時燃料交換や重水の触媒・冷却材利用等)。1966年に始まったAECL主導による22基のCANDU炉建設では、20基がオンタリオ州、1基がケベック州ジェンティリ、1基がブランズウィック州ポイント・リプリーに建設された。

2008年には、オンタリオ州の総発電量のうち53%が原子力によって発電された。2008年経済危機においてはオンタリオ州の電力需要は年あたり約25 TWh低減し(主に産業節電による)、それ以来横ばいが続いている。 ナンティコークの石炭火力発電所が2014年に閉鎖したのち、オンタリオ州の電力供給はほとんど全てが水力と原子力によるものになった。

2011年、AECLは原子炉部門をSNC-Lavalinの子会社Candu Energyに1,500万カナダドルで売却した。この売却は、原子力の商業リスクに関する納税者の負担を軽減する事を目的としたもので、カナダ政府がCANDU炉の知的財産権と将来にわたるロイヤルティを保持するものである。Candu Energyは世界にある既存のCANDU炉に付随するサービス提供及び新たな原子炉モデル(EC6とACR)の開発を想定している。カナダ政府はEC6モデルに対する7,500万ドルの開発投資を継続し、3基の原子炉更新(ブルース、ポイント・リプリー、ウォルソン)を目的にCandu Energyと下請負契約を行った。  

カナダ原子力の未来:新規建設と更新

カナダの原子炉は運転耐性年数の終わりが近付いているが、電力市場は低コストの化石燃料と福島事故後の安全懸念が顕著である。原子力に対する政治的・世論的支持が後退する中で、カナダ原子力産業は原子力からの社会的移行に直面している。過去20年間、開発研究資金の削減と新規建設の停止、様々な更新作業の却下が目立った。最近のケベック州、ノバ・スコティア州、ブリティッシュコロンビア州のウラン鉱山の開発停止期間は、AECL部門の民営化と同様に原子力からの政治的移行を反映している。

原子力への投資に対する最終判断は、カナダの各州にかかっている。各州は州の電気事業者や公共事業体と共に新たに原子炉を建設・更新するかどうかの判断を行うことになる。現在のところ、オンタリオ州、ニューブランズウィック州、ケベック州で3基の更新プロジェクトが進行中である。直近でも公的・私的企業による新規プロジェクトが検討されてはいるものの、新規原子炉建設に対する確たる約束は存在しない。新規原子炉建設に対する確約の先延ばしは、将来のエネルギー需要と経済・更新計画を害するものになりうる。

追加情報

カナダ政府によれば、カナダにおける石炭火力の代替電源としての原子力の利用は、年あたり約90メガトンの温室効果ガス削減につながる。カナダ・エネルギー研究所によると、原子炉はGDPに対して年あたり66億カナダドル貢献するほか、15億カナダドルの政府収入と12億カナダドルの輸出につながる。さらに、原子力発電所は21,000人の直接雇用を生み、10,000の請負人雇用と40,000人の雇用創出を行う。

  • オンタリオ州-2006年オンタリオ州エネルギー計画では、2030年に14,000 MWの原子力発電容量を想定している。2010年にこの想定は14,000 MWから12,000 MWへと下方修正された。2013年の更新では、さらに低い需要予測に基づいて新規原子炉建設と更新の却下につながった。世界原子力協会によると、「原子力はオンタリオ州計画の中心であり続け、2014年には石炭火力発電を廃止し、原子力は2025年に発電量の42%を構成する」としている。
  • アルバータ州-アルバータ州では原子炉建設の利益は州内に広範囲に分布するオイルサンドと関係している。現在、天然ガスが石油掘削に必要なエネルギーを供給している。天然ガスによるエネルギー生産は、燃料とCO2排出の観点から割高となっている。原子力発電は石油掘削に必要なエネルギー発電に対する経済的で低炭素の代替方法である。

国際競争

カナダの原子力セクターは世界のエネルギー輸出において有利なポジションを占めているが、国内のエネルギー需要と技術的開発の停滞により、行き詰まりを経験している。AECLとCandu Energyが海外で直面する大きな課題として、CANDU とACR炉が重水炉設計となっている一方、世界の原子炉の大部分が軽水炉設計となっている点である。軽水炉は初めに上市され初期投資が低い事から、世界の市場を支配している。しかしCANDU炉を運転している国々は、現在軽水炉を運転している国々からよりも、カナダから原子炉を購入するだろう。なぜなら、CANDU炉を軽水炉に変換する事にはよりコストがかかるからである。カナダのイノベーションが停滞する中、CANDUとACR炉技術は国内外を問わず外資との激化しつつある競争に直面している。