新興市場における原子力の将来:ロシア


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russiaロシアは、世界で最初に原子力発電所を稼働させた国であり、原子力発電量は現在、世界第4位である。ロシア国営の原子力産業は、高速炉技術を現在開発中であり、また、既存の原子力発電所の効率向上により原子力発電量を増加させようとしており、世界中の国に原子力技術を輸出する中心国になることを国の優先課題にしている。

歴史

1954年、ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)のオブニンスク原子力発電所は、世界で最初に稼働した原子力発電所になった(現在はロシアに属する)。オブニンスク原子力発電所は軽水冷却黒鉛減速型原子炉を使用しており、チェルノブイリ原子力発電所の原子炉などの他の黒鉛減速型原子炉の原型となった。オブニンスク原子力発電所は、ソ連で1900年代初頭から実施されてきた確固とした研究開発への取り組みが生み出したものである。ロシアの研究者は、世界中の国が研究を競い合っていた原子力技術を最初に修得した。

1940年代には、ソ連は濃縮・再処理能力を構築しようとしていた。再処理が望まれた理由の1つは、ソ連が西欧諸国や米国と敵対関係にあったことである。1941年のドイツによるロシア侵攻から1991年のソ連の解体まで、ソ連は、政治的にも経済的にも米国と「西側」諸国から孤立を深めていった。そして、原子力産業とソ連経済を維持するために国内の資源に依存していた。

ソ連の原子力発電所の総設備容量は、1982年までに18,000 MWを超えた。また、1980年代中ごろまでに原子炉が25基稼働していた。しかし、現在のウクライナにあるチェルノブイリ原子力発電所で1986年4月に大事故が発生し、ソ連の原子力産業には大きな問題があることが表面化した。特に、ソ連の孤立と共に、チェルノブイリ原子力発電所の設計上の欠陥、根本的な人為ミス、とりわけ、安全文化の欠如が、チェルノブイリ大事故の原因として広く認識された

1986年のチェルノブイリ事故から1991年のソ連の解体までに新たに運用開始された原子力発電所は、1カ所だけであった。

ソ連の解体によって引き起こされた経済的・政治的大混乱は、地政学的・経済的な大変革を生じた。原子力部門内では、ソ連中型機械製作省から改組されたロシア連邦原子力省が、ソ連時代の原子力発電所の約80%を引き継いだ。この体制下で、新生ロシア政府は、新生ロシア国内の民生用原発すべての運転管理会社ロスエネルゴアトムを設立した。

ロスエネルゴアトムは2007年に、アトムエネルゴプロムの子会社になった。アトムエネルゴプロムは、核燃料サイクルのあらゆるセグメントで運転中の80カ所以上の民生用原子力発電所を統合するために設立された100%国有の持株会社である。同じ年に、ロシア連邦原子力省はロスアトムに改組された。ロスアトムは現在、アトムエネルゴプロムとロスエネルゴアトム、さらに、ロシアの民生部門と軍事部門にある350社以上の原子力会社と研究開発施設を監督している。

ロシアにおける原子力の現況

現在、ロスエネルゴアトムがロシア国内で運転中の原子炉は計33基で、建設中が10基ある。2011年のロシアの総発電量のうち6%が原子力による発電量であった。54%が天然ガス、22%が石油、16%が石炭、2%が再生可能エネルギー源による発電量であった。2012年7月時点で、ロシアは2020年までに、原子力発電所の発電容量を30.5 GWe増やす計画で、2050年までにロシアの総発電量の45~50%を原子力による発電量にしようとしている。

ロシアが原子力発電を増やしたい理由は主に、天然ガスの国内消費量を削減して、欧州とアジアの国々への天然ガスの輸出をその分増やし、経済的・地政学的に優位に立ちたいという願望である。ロシアは天然ガスの埋蔵量が世界最大で、石油と天然ガスによる収入が連邦予算の歳入の50%以上を占めている。ロシアは現在、欧州が使用する総ガス量の30%を供給しており、主要ガス供給国という立場を利用して欧州大陸の政治に影響力を行使する場合がよくある。たとえば、ロシアとウクライナ間の最近の政治的激変の最中に、ロシア国営のエネルギー会社が、今後は割引価格でガスを売却しないとウクライナに宣告した。ウクライナは天然ガス供給の60%をロシアからの輸入に依存している。また、ロシアは2014年5月に、今後30年間に総額4000億ドルの天然ガスを中国に供給する契約を締結したが、この契約も欧州向けの天然ガス供給に影響を与えるものである。

規制と監督

ロシアの原子力部門はロシアエネルギー省の規制を受けている。エネルギー省は、エネルギー部門における政府の政策と法的規制の起草と実施を担当する連邦執行機関である。しかし、前述したように、民生部門と軍事部門にある350社以上の原子力会社と研究開発施設を監督しているのは、原子力国家会社ロスアトム(Rosatom)である。ロスアトムの監督対象には、民生用原発すべて、核兵器施設、世界で唯一の原子力推進砕氷船が含まれている。ロスアトムは、ロシア国内のウラン採掘と核燃料の生産も監督している。

原子力発電所の出力

ロシアでは、原発の新設も継続しているが、既存の原子力発電所の稼働率向上、一部は既存の原子炉の出力向上により原子力発電所の出力を向上させている。1998年のロシアの原子力発電所の稼働率は56%しかなかったが、2009年までに80.2%に上昇した。ロシアエネルギー省の2012年7月の草案では、WER-440炉を107%まで、RBMK炉を105%まで、WER-1000炉を104~110%まで出力向上させることを想定していた。

多くの原子炉がロスアトムから寿命延長の認可を受けている。2011年末までに、17基が15年の寿命延長の認可を獲得していた。一般的に、ロシア製の原子炉は元々30年の寿命の認可を受けていたが、設計変更と改修を行った後に、世界原子力協会は、ロシアのほとんどの1000 Mwe炉に対して、15年の寿命延長が「妥当である」と表明した。

高速炉技術

ロシアは2012年に、「あらゆる」高速炉技術と閉じた燃料生産を、2020年までに実証する計画を発表した。この計画により、ロシアは総容量100 GWeと年間100トンの燃料供給を達成しようとしている。高速炉による容量は、2030年までに約14 Gwe、2050年までに34 Gweを占めると予測されている

ロシアのベロヤルスク原子力発電所のBN-800型4号機は、この目標を達成するために開発中である。最初のBN-800炉は2015年の稼働が予定されている。また、BN-800炉が2基、中国に先渡しするために設計中である。BN-1200炉などの他の高速炉も開発中で、ロシア国内の高速炉を増やす役割を果たすものと期待されている。

洋上原子力発電所

ロスアトムは、ロシア国内に洋上原子力発電所を7~8カ所建設する提案を行っている。各原子力発電所に35 MweのKLT-40S型原子炉を2基設置する計画である。これらの洋上原子力発電所のいずれも、寿命は38年間とする予定である。原子力発電所は、12年間連続運転させ、その途中に保守のために1年間停止させる。これらの洋上原子力発電所の1カ所目が現在建設中である。

ウラン採掘

ロシアは、ウラン埋蔵量が世界第2位であり、世界のウラン濃縮業務の40%を提供している。ロシア最大のウラン鉱山であるクラスノカメンスク鉱山は坑内掘鉱山で、2011年のウラン採掘量は世界全体の4%であった。2014年1月、ロスアトムのCEO(最高経営責任者)は、ロシアは今後2年間で天然ウランの生産量を約3倍に増やし、年間生産量を8,400トンにすると発表した。

将来展望

ロシアは海外に原子力関連のモノとサービスを輸出しようとしているため、高速炉はロシアにとって優位な技術である。原子力技術の輸出は、ロシアにとって最優先課題であるため、ロシア政府は550億ドルを投じて、輸出市場の拡大に努めている。

米国の一般市民の間には、1986年のチェルノブイリ事故の記憶が強く残っているが、ロシアの原子力技術には需要がある。2010年の時点で、世界全体で建設中の原子炉60基のうち、ロシアは15基を建設してした。ロシアの顧客は、中国、インド、トルコ、イラン、ウクライナ、ベトナムなどである。

ロシアは、原子力技術の輸出に際して、新設される原子炉向けの燃料をすべて供給し、使用済燃料を回収する契約を結ぶことが多い。実際、ロシアの2012年の濃縮業務の輸出額は665億ドルに上り、2030年までに世界の濃縮業務の3分の1を確保する計画である。

ロスアトムは、将来、ロシア国内に国際的な核燃料サイクル業務センターを誘致する計画があると発表している。こうした施設では、海外の資金も利用して、4つの主要プロジェクトを扱うことになる。すなわち、ウランの濃縮・再処理、使用済核燃料の貯蔵、原子力作業員の訓練と認定、研究開発の4つである。

ロシアは、高速炉などの先進技術の開発と核燃料などの原子力技術の輸出の継続により、原子力中心国としての地位を確保しようとしている。また、中心国としての役割は今後も拡大していくと予想されている。