出力向上:低いコストでより多く発電する


iStock_000003470513Smallあなたが4ドアセダンのオーナーだとしよう。もっと高出力の車を運転したくなった場合、どんな選択肢があるだろうか。新車購入は予算的に無理でも、今の車を高出力に改造することはできる。すなわち、計器の交換、グレードの高い燃料の使用、高性能タイヤへの交換などである。

原子力産業も同様の問題に直面している。原子力発電所の新設には多くの障害があるため、発電事業者は既存の発電所の発電能力を向上する方策の考案に努めている。

出力向上

米国原子力規制委員会(NRC)が商用原子力発電所を認可する場合、炉心ごとに最大運転出力制限値を設定している。この制限値は必ずしも、炉心と発電所が運転可能な最大出力制限値とは限らない。原発ごとに最も安全な出力レベルとNRCが判断する最大の出力レベルのことである。米国の原発では炉心の最大出力制限値の向上(「出力向上」とも呼ばれる)に、NRCの認可が必要になる。

原発の出力制限値を向上させる場合に注意すべき検討事項が2つある。すなわち、発電のための熱発生量を上げる炉心の能力と、熱と蒸気流量の増大に安全に適応するためのプラント構造物の制限である。

米国で使用されている主な出力向上方法は以下の3つである。

1. 測定精度改善型出力向上(MUR)

最初の2つの出力向上方法は、大規模な改修を実施しなくても行うことができる。測定精度改善型出力向上(MUR)は、出力の再計算の技法と計装を改善する方法である。例として車の運転の場合を考えてみると、計装の精度が上がれば、それだけ速度計算の効率が上がり、速度制限範囲内でもスピードが出せるようになる。同様に原発の場合、計装の精度が上がれば、それだけ運転員による熱量計算の効率が上がり、原発の構造上の安全限界ぎりぎりまで原子炉を運転できるようになる。

原子炉出力は核反応で決まるため、測定は非常に困難である。代わりに、2次的パラメータを使用して原子炉出力を測定する。核反応により発生するエネルギー量、すなわち熱量を測定することにより、原子炉出力を推定できる。原子炉出力の測定に一般的に使用される2次的パラメータは、給水流量と、蒸気と給水のエンタルピーである。温度、圧力、容積の測定はかなり正確に行うことができる。

正確な測定が少々難しいのは流量、特に給水流量である。給水流量の測定には、ベンチュリ計という計器を使用する。常に水流があるため、時間が経つとノズルが腐食し、計器の読み値の精度が低下する。出力向上方法の1つは、古いベンチュリ計を高性能の給水流量計に交換することである。以前の計器の精度は±2%であるのに対し、最新の計器では±0.5%である。このため、計器交換により原発の給水流量が1.5%増え、その分、出力向上が可能になる。このため、MURは発電所の出力を最大2%向上できる。

上述したことは、車の例に戻ると、自動車メーカーが旧式の機械式速度計から電子式速度計への交換を開始した場合に相当する。MURにより、運転員は原子炉出力の測定精度を上げることが可能になるため、出力制限ぎりぎりの出力で運転できる。

2. ストレッチ型出力向上(SPU)

2つ目の出力向上方法はストレッチ型出力向上(SPU)である。ストレッチ型出力向上には、計装設定、運転手順、技術仕様および、または設定値の調整が必要で、発電量を2~7%向上させる効果がある。これらの調整により、原発の設計能力範囲内で最大出力制限値を上げることが可能になる。SPUとMURの違いは、SPUが原子炉運転出力制限値の向上を可能にするのに対し、MURでは、「測定精度」を上げて、規定の出力制限値ぎりぎりまで運転できるようにするだけである。

車の例で言うと、SPUは、自動車メーカーと協力して、マニュアルトランスミッションの真の最大回転数をさまざまなギヤに対して決めてから、計器をリセットするようなものである。これにより、「レッドゾーン」が小さくなり、メーカーが大量生産のために設定した推定可能で極度に控え目な制限値より高い回転数が開始点になる。

NRCは通常、保守的な最大出力制限値を設定しており、炉心が到達可能な最大出力ではないことがある。炉心には出力向上に対応するための変更は不要で、これはMURとSPUの場合が多い。その代わり、制限は発電所側にだけ設定できる。炉心の潜在的出力の向上が必要になる場合は、低濃縮ウランまたは高濃度の新燃料で燃料交換することもできる。

3. 設備拡張型出力向上(EPU)

3つ目の出力向上方法は設備拡張型出力向上(EPU)である。炉心の改修を適切に実施すると、エネルギーの発生増に対応するために発電所自体の改修が必要になることがある。炉心が作る熱エネルギーを使って、水の加熱と蒸気の発生を行う。次に、この蒸気を使ってタービンを回転させ、発電する。次に、蒸気は凝縮されて給水に回され、このサイクルを繰り返す。したがって、出力を上げると、熱、熱伝達、蒸気、流量が増加し、タービン、配管、弁、ポンプ、熱交換器などへの応力が増加する。つまり、出力レベルが高い状況に耐えうる構成部品が必要になる。EPUにより、以前の運転出力制限値より20%高い出力が得られる。

米国内と海外での出力向上

出力向上の利用が開始された1970年代以降、NRCは154件の出力向上を認可した。この結果、約21,105 MWt(熱出力メガワット)または7,035 MWe(電気出力メガワット)だけ出力向上した。この発電能力は、原子炉を約7基新設するのに相当する。原子力産業が米国の電力の5分の1を供給していることを考慮すると、出力向上はコストが比較的低く済むため魅力的な方策である。

  • ウェスチングハウス社によると、2011年9月時点で、米国のPWR炉(加圧水型軽水炉)34基、欧州のPWR炉5基、アジアのPWR炉2基のMURが完了している。
  • ウェスチングハウス社によると、2011年9月時点で、米国のPWR炉42基、欧州のPWR炉2基、アジアのPWR炉4基のSPUが完了している。
  • ウェスチングハウス社によると、2011年9月時点で、米国のPWR炉13基、欧州のPWR炉10基のEPUが完了している。
  • スイスは、原子炉5基を13.4%出力向上させた。
  • 米国は1977年以降、140件以上の出力向上を認可している。
  • スペインは現在、原子炉9基を最大13%出力向上させる計画を実行中である。
  • フィンランドは2基を出力向上させた。
  • スウェーデンは3基すべてを出力向上させた。

原発建設が世界中で反対運動に遭っている中で、既存のリソースを使用して発電量を増やす方策を検討することは価値がある。出力向上は、発電効率と発電量を向上させる1つの方法である。

出典NRCThe Los Angeles Times、Westinghouse Nuclear (1,2)、World Nuclear NewsPower Engineering