新興市場における原子力の将来:サウジアラビア


Forum on Energyの新興市場シリーズでは、新興市場における原子力発電の将来を国別に特集している。多くの国が福島事故を受けて原子力エネルギーの利用を手控えている一方で、原子力エネルギーを将来の主要エネルギー源としようとする新興国の明確な取り組みも存在する。そのような国の中で、Forum on Energyが新興市場シリーズでとりあげるベトナム、アラブ首長国連邦、ヨルダン、中国、トルコ、インドそしてフィンランドは、ほんの一部である。

サウジアラビアというとすぐに石油探査という言葉が思い浮かぶが、サウジアラビア王国は、今、世界で最も野心的に原子力導入に動いている国の1つだ。サウジアラビアは、今後16年間に1,000億ドル以上の費用をかけて16基の原子炉を建設することを計画している。これらの新しい発電所の発電容量は22GWh、2030年の計画総発電量のおよそ20%を占めることになると期待されている。最初の建設は2016年に開始すると見込まれており、2022年から2030年までの間、毎年2基ずつ原子炉を完成させる計画だ。

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伝統的に、サウジアラビアは、国内の石油、天然ガス資源に依存して電力需要を満たしてきた。発電用燃料のおよそ50~60%が燃料油で、残りが天然ガスとなっている。世界最大の原油・天然ガス生産国の1つであり、世界の原油と天然ガスの埋蔵量の5分の1を有するサウジアラビアにとって、国内のエネルギー供給を多様化する必要性が生じてきたのはかなり最近のことである。過去30年にわたり、サウジアラビアでは工業化と都市化が進み、電力需要が飛躍的に増大した。2001年に24GWhに達したピーク需要は、2011年になると45GWhに急上昇した。2030年にはおよそ135GWhに達するものと予測されている。

電力需要の拡大により、すでに、原油と天然ガスの生産量のうち国内発電用に確保しなければならない量の比率が大幅に上がっている。それは輸出を制限し、余剰能力を減少させ、新たな石油化学産業の発展を阻んでいる。夏季には、生産量の25~30%以上が国内利用に回されている。電力需要の高まりに追い打ちをかけているのが、淡水需要の急速な伸びである。サウジアラビアでは淡水の100%がエネルギー集約的な海水の淡水化処理で生み出されているからだ。

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サウジアラビアは、寛大な補助金財源を確保できるように十分な量の原油・天然ガスを輸出しながら発電量を増やすため、考えられるすべての対策を検討した結果、効率向上と原子力および再生可能エネルギーによる発電拡大に重点的に取り組むことを決定した。これによって、55GWhである現在の発電量を2020年までに120GWhに増加させ、2032年までにさらに拡大する計画である。計画されている2020年の発電容量には55GWhの再生可能エネルギー(現在はゼロ)が含まれており、そのうちの41GWhは太陽光発電とする予定だ。また、2032年までに計画されている発電量の増加には、18GWhの原子力発電と、37GWhの供給増を削減するための効率性向上が含まれている。サウジアラビアは、コージェネレーションにも多額の投資をしており、サウジアラムコなどの企業がコージェネレーションで発電した電力を電力会社、そして最終的に個人に販売することを可能にする新しい規則を実施している。

サウジアラビアの原子力の歴史

サウジアラビアで初めて電力需要の拡大が見られたのは1990年代と2000年代初めであるが、状況の深刻さが認識されたのは2006年夏、国内の電力需要を満たすことができず、ピーク時に出力を削減せざるを得なくなったときであった。このこととその他の動きも相俟って、原子力に関する最初の話し合いが行われた。2006年、湾岸協力会議(サウジアラビアは最大の加盟国)は原子力の平和利用に関する研究を委託した。

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しかし、湾岸協力会議による共同での原子力開発という最初の試みは成功せず、2009年、サウジアラビアは独自の原子力計画を検討中であると発表した。2010年4月、アブドラ国王は、「我が国では発電、海水淡水化、枯渇しつつある炭化水素資源への依存度を下げる必要性が強まっており、それに対応するには原子力発電開発が不可欠である」と宣言した。この宣言を実行に移すため、サウジアラビアはリヤドにアブドラ国王原子力・再生可能エネルギー都市(KA-CARE)を設立した。KA-CAREはサウジアラビア国内の原子力発電に関する調整を行う中心機関に指定されている。

翌年、KA-CAREは、コンサルティング会社プーリとの協力により、「原子力と再生可能エネルギーの利用に関する高度戦略」を決定するための広範な戦略的分析を行った。ここから、サウジアラビアの現在のエネルギー政策と原子力開発の概要が導かれた。

2011年11月、KA-CAREは原子力発電所の建設に最も適した場所を決定するための現地調査をウォーリーパーソンズに委託した。このプロセスは目下進行中であるが、2013年9月、近くに冷却水源があること、サウジアラビアの電力網における位置、海水淡水化プラントなどの電力集約的な消費者の近くに位置することに基づき、3つの一次候補地が選定された。ペルシア湾岸のジュバイル、紅海沿岸のラブークとジーザーンである。

現在、KA-CAREはサウジアラビア原子力規制庁(SARRA)の設立準備を行っている。SARRAは2014年の早い時期に業務を開始する見通しだ。2014年1月現在、KA-CAREはまだ原子炉の建設や運転を行う企業や国家パートナーを選定していない。しかし、入札と建設プロセスを進める国際協定の締結を積極的に進めている。また、KA-CAREは2014年中に、原子力ホールディングカンパニーを設立し、原子力発電所を運転するための海外パートナーとの合弁会社設立を契約できるようにする予定だ。サウジアラビアは原子炉で使用される技術の多様化に関心を示しており、第3世代および第3世代+の改良型原子炉のみを検討している。2014年中に最初の2基の原子炉の第一次入札が行われるものと予想されている。

パートナー候補

GE日立 - GE日立は、サウジアラビアに原子力技術を提供する主要入札者の1つになると期待されている。このため、同社は米国に本社を持つ原子力発電所運営会社のエクセロン・ニュークリア・パートナーズとの間で、共同で入札を行うという了解覚書に署名した。GE日立は第3世代+高経済性単純化沸騰水型原子炉(ESBWR)と第3世代改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の使用を提案している。KA-CAREはこの提案された技術の検討を行っていると言われている。

東芝/ウェスティングハウス - 東芝/ウェスティングハウスはサウジアラビアへの参入に積極的に動いている。同社も米国に本社を持つ原子力発電所運営会社のエクセロン・ニュークリア・パートナーズとの間で、共同入札を行うという了解覚書に署名している。東芝/ウェスティングハウスは、ウェスティングハウスのAP1000(第3世代+設計)と東芝のABWRをサウジアラビアで使用することを提案している。

アレバとフランス電力会社(EDF) - アレバとEDFはサウジアラビアの原子力ビジネスへの参入に向けて積極的に活動しており、予想される入札において支援を得られるよう多くの会社や組織と合意を結んでいる。2013年7月、アレバとEDFは、「サウジアラビアにおける原子力専門能力向上に貢献することを目的として」、サウジアラビア国立技術研究所との合意に署名した。また、2013年12月、アレバとEDFはサウジアラビアの産業界のパートナー5社(ザミール鉄鋼、バーラ・ケーブル、リヤド・ケーブル、サウジ・ポンプ、デスコン・オラヤン)との間で、将来の原子力事業のためにサウジアラビアの供給業者ネットワークを築く了解覚書に署名した。同時に、アレバとEDFは、サウジアラビアの4つの大学(リヤドのキングサウード大学、ジェッダのダルアルヘクマ女子大学とエファット大学、アル・コバールのプリンス・ムハンマド・ビン・ファハド大学)との間で、サウジアラビアにおける原子力専門家の育成に貢献するという一連の協定を結んだ。

その他 - 入札に関心を示している他のグループとしては、韓国電力公社を中心とする韓国のコンソーシアム、日本の国際原子力開発株式会社を中心とする日本のコンソーシアム、ロシアのロスアトムなどがある。

国際協力

米国 - 2008年、サウジアラビアと米国は、民生用原子力技術開発において米国政府がサウジアラビアを支援することを可能にする枠組み構築の了解覚書に署名した。この合意により、環境的に持続可能で、安全、かつ信頼できる民生用原子力技術開発における米国とサウジアラビアの包括的な協力枠組みの設立プロセスが開始された。また、サウジアラビアは、米国が提唱した「拡散に対する安全保障構想(PSI)」に参加し、核燃料を国際市場に依存すること、および完全な核燃料サイクル技術は保有しないことを明言した。

米国とサウジアラビアは、まだ123協定の交渉を終えていない。この交渉を完了して米国上院の承認を得ることができない限り、米国の原子力企業(およびその他の企業)はサウジアラビアで原子力に関わる一定の活動を行うことができない。

国際原子力機関(IAEA) - サウジアラビアは1962年以来、IAEAの非核加盟国であり、民生用原子力に関する多くの多国間協定に参加している。最近では、2009年にIAEAと保障措置協定を締結した。これにより、サウジアラビアが民生用原子力プログラムを確立するのを手助けする国際協力プロセスが開始されることになった。しかし、サウジアラビアはまだIAEAの追加議定書の署名国にも締約国にもなっていない。

フランス - 2011年2月、フランスとサウジアラビアは、両国が原子力の平和利用に関する知識の醸成、利用、移転の分野で協力するという原子力協力協定を締結した。この協定により、数十億ドルに達する原子力発電所の建設・運転プロジェクトにフランスの原子力業界が入札できるようになった。

アルゼンチン - 2011年6月、サウジアラビアとアルゼンチンは原子力協定に署名した。これは、サウジアラビア海岸地帯での海水淡水化プラントに電力を供給する小規模原子炉の開発に重点をおいた協定である。これにより、アルゼンチン原子力委員会とその民間パートナーであるINVAPが、サウジアラビアで研究炉の建設を開始する道が開かれた。INVAPはこれまでにアルジェリアとエジプトで研究炉を建設している。

韓国 - 2011年11月、サウジアラビアと韓国は、原子力開発に関する二国間協力協定を締結した。この協定は、原子炉と研究炉の研究、開発、建設での両国の協力を定めたもの。2013年6月、韓国電力公社は、KA-CAREが韓国の原子炉を選択したならば、原子力技術のローカライゼーションを支援し、共同研究開発を行うという申し入れを行った。

中国 - 2013年1月、サウジアラビアと中国は、中国が原子炉の開発と保守、研究炉の建設、核燃料成型加工供給を行うための下準備となる二国間協定を締結した。

交渉中の協定 - サウジアラビアは現在、ロシア連邦、チェコ共和国、イギリス、米国との間で協定を結ぶための交渉を行っている。

問題点

米国との123協定が締結されていないことが、サウジアラビアの原子力発電計画の大きな不安材料となっている。123協定が結ばれなければ、サウジアラビアが原子力技術を輸入するのは非常に難しくなる。フランス、日本、米国という3つの主要な入札国は、123協定が締結されない限り、ウラン濃縮と再処理技術を移転しないだろうし、それはサウジアラビアの調達オプションを制限することになる。

また、米国政府とサウジアラビアが123協定に署名することができたとしても、米国上院がそれを承認するかどうかは全く不透明である。サウジアラビアは、濃縮された燃料を国際市場で購入する(ゆえに核燃料サイクル技術を持つ必要性は排除される)と約束しているが、米国議会の一部の人々は、サウジアラビアがイランのウラン濃縮に対抗する意図を持っているのではないかと懸念している。アブドラ国王は、イランが独自の核兵器製造に成功したならば、サウジアラビアもそうするつもりだと繰り返し述べている。また、米国議会の中には、サウジアラビアの政権の安定性も疑問視し、万一政権が崩壊した場合に原子力関連機材がどうなるのかと危惧する声もある。