日米のエネルギー政策における優先順位に関する報告書


日米原子力ワーキンググループ(2011年3月の福島第一原子力発電所事故の広範な戦略的含意を検討する二国間の専門家による独立したグループ)は、研究結果と提言をまとめた声明を発表した。『福島事故後の戦略的優先順位に関する認識共有と声明』と題した報告書は、日本や米国、そしてウィーンにおける世界の原子力政府コミュニティにおけるオピニオンリーダーたちとの12ヶ月に及ぶ議論を受けた、グループのコンセンサスを反映している。

報告書は以下の項目について述べている:

  1. 日本のエネルギー政策決定とは独立に取り組まねばならない課題
  2. 日本のエネルギー政策議論の中での幅広い戦略的課題
  3. 日米の産業、政府に対する戦略的な提言

報告書最終章の重要な勧告のいくつかは、もし太平洋の両端の決定が国境を越えて影響を及ぼしあうならば、前進するために世界のエネルギーコミュニティがどのように協力することができるか、について指針を示している。これらの勧告の中には、緩和措置や廃止措置プロセスと同様に、使用済み燃料や廃棄物の共同解決策を明らかにするための国際的な連携が含まれている。

 

US Japan Nuclear Working Group Statement, JAPANESE by forumonenergy

 

概要

日本で発生した2011年3月11日の東日本大震災の悲劇により18,000人以上の人々が死亡あるいは行方不明となり、原発事故の発生によって地域全体が避難させられる事態となった。この出来事は日本と米国のユニークかつ重要な絆を再認識させた。地震と津波の発生直後、米国市民や団体はすぐに募金、支援、そして励ましの言葉を送り、自衛隊と駐日米軍の協力により東北の復興と救援活動が行われた。この努力により二国間の友情、信頼、そして相互協力が浮き彫りになり、日本に駐留する数千人の米軍の重要性を認識させた。

同様に、地震と津波の後の福島第一原発事故から、友情や軍事的協力と並行して、日本と米国の国益は深く関わり合い、相互依存していることが明らかとなった。日本は原子力の推進か否か関して議論を行う中で、これが日本の人々や家族、地域などにとって重大な問題であることは明らかである。その上、日本のエネルギー政策に関する決断が世界、そして日本の外交優先事項に影響を及ぼすことになり、その大部分を米国が共有することは紛れもない事実である。

背景

「日米原子力ワーキンググループ」は福島の原発事故を受けて、広範な戦略的示唆を与えることを目的とした、日米の専門家から成るグループである。なおメンバーの多彩な構成と後援者から明らかであるように、本グループは原子力の推進も反対もせず、既に存在する多くの研究や事故直後の教訓を繰り返すこともない。その代わりに、日本の原子力エネルギー・パラダイムについて考える上で、両国の戦略的関心がどのように良く、あるいは悪く影響するのかを理解し、説明し、主張することを目的とする。

常に変化していく日本のエネルギー政策の状況や影響を理解するため、本グループは日本と米国のオピニオンリーダーや政策決定者、そしてオーストリア・ウィーンの国際原子力機関(IAEA)の専門家などと会議を行った。4つの会合を通してグループは日本の内閣や省庁、大手新聞社の編集者、反原発派のリーダー、原子力産業界の役員、ウィーンの国際連合日本政府代表、駐日またウィーン駐在の米国外交官、外交、核不拡散、核軍縮を専門にする著名人、そして国際原子力機関の事務局長も含めた主要なスタッフと話し合いを行った。(リストは日米原子力ワーキンググループのホームページを参照)

本グループの活動の多くは笹川平和財団、モーリーン&マイク・マンスフィールド財団、全米科学者協会、スミス・リチャードソン財団、 そしてカーネギー・コーポレーションの支援によって実現した。他に全日空からの現物出資、日立、東芝、三菱、そして中部電力からの支援を受けた。グループメンバーのうち数人は自費で参加した。グループの提案はメンバー個人の意見から成り立っており、それぞれの所属機関や支援機関の見解を反映しているとは限らない。

報告内容

日本のエネルギー政策はあくまでも日本の人々、そして政府による決断である。

日米原子力ワーキンググループそして米国政府は、この決断に正式には携わらない。いずれにせよ、メンバーはいくつかの課題や優先事項の下で、日本のエネルギー政策の変化の影響を受けた戦略的利益についての懸念を共有している。これらの事項は日本と米国国民のためになると確信し、日本の原子力エネルギー政策の議論と両国のエネルギー・外交政策コミュニティに取り入れられるべきだと信じている。

日米原子力ワーキンググループは政策戦略にあたって次の点を重要視している。

1.日本のエネルギー政策決定とは独立に取り組まねばならない課題

2.日本のエネルギー政策議論の中での幅広い戦略的課題

3.日米の産業、政府に対する戦略的提言

1.日本のエネルギー政策決定とは独立に取り組まねばならない課題

1)福島事故によって影響を受けた人々の幸福と健康

福島事故はエネルギー生産、地域社会と政治との関わりを改めて示した。事故によって影響を受けた人々の幸福や健康が、一番の優先事項となるべきである。

2)迅速な廃止措置と除染への取り組み (D&D)

国際社会では全体的に、放射線安全、環境の除染活動、廃止措置と除染 (D&D)、そして使用済み核燃料の取り扱いなどに関する基準の重要な決断を後回しにしている。基準が存在しないため、福島の事故発生後、避難生活が必要以上に長引いてしまうという問題が生じてしまった。地域や環境の損害の補償を迅速に行わなければ、世界中の原子力発電所の信用を失わせ、原子力発電所立地自治体に不安や懸念を与えてしまう。将来的な世界の発電所の廃止措置アプローチに影響を及ぼす可能性があるため、福島県の除染と福島第一原子力発電所の廃止措置は、地元の住人や国際社会との協力の下で早急に行われるべきである。さらに、福島での廃止措置と除染作業は、透明性と責任感をもって、日本国民と国際社会の信頼を得られるように行われるべきである。

3)日本のプルトニウム貯蔵に関する確実な方策

日本が原子力発電所の再稼働を決断するか否かに関わらず、国内に存在する大量のプルトニウム貯蔵の処分問題は未だ解決されておらず、取り組まねばならない課題である。もし日本が原子力発電から撤退しながらも核燃料サイクルを持続させるとしたら、処分はさらに緊急な課題となる。日本のプルトニウム貯蔵量を減少させる確実な方策がなければ、不拡散や安全保障に関しての懸念が高まり、日本の核不拡散に係る国際的リーダーシップが損なわれる。

4)福島事故からの教訓を世界に発信

原子力エネルギー分野のグローバルリーダーとして、日本、米国、国際原子力機関 (IAEA)、その他の国際機関は、福島事故からの教訓を日本国民、国際社会、特に原子力発電を利用若しくはその導入を考えている国々に発信する必要性がある。

2.日本のエネルギー政策議論の中での幅広い戦略的課題

1)世界のリーダーとしての日本の役割

日本は小国ではない。日本は国際社会のリーダーであり、日本の今後の原子力利用にする決定は国際社会に幅広く、重大な影響を与える。さらに、これらの決断は世界がどのように日本を見るかにも影響する。

2)核拡散防止の国際的なリーダーシップ

日本は核兵器を持たない国でありながら、最先端の原子力エネルギー技術を所有する国としてユニークな役割を果たしている。日本がこのリーダーシップの役目を果たさなければ、安全性、安全保障、そして核拡散防止の基準が不十分である他国が、その役割を補完する恐れがある。その上、日本の原子力エネルギー技術の衰退により、日本とアメリカが核拡散、テロ、事故などの危険から守られた世界を実現するための影響力を低下させる。

3)日本の策定中の原子力安全規制

日本の原子力産業への新たな規制は、日本特有の状況や難題を取り入れたものでありながら、世界中から注目を浴びている。規制は「現在進行形」のものとしてとらえるべきで、常にリスクの確認、評価、そして緩和のために調整されなければならない。一番有効な規制はリスクを認識したアプローチであり、リスクのデータ化、管理を通じて社会を保護しながらリスクを認識する。日本は既存のピアレビュー・プロセスを有効に使い、規制枠組みを最高水準の安全性、セキュリティを確保するものへと再構築するべきだ。

4)環境問題

日本は以前、気候変動への国際的な行動を牽引する第一人者であった。日本の今後のエネルギーに関する判断は、自国の二酸化炭素排出量を国際的な基準内に収められるかや、環境分野における自国の世界的な役割に影響を及ぼす。

5)世界の経済的・技術的なリーダーとしての日本の役割

日本のエネルギー政策は国内経済に大きく関わり、世界の経済的・技術的なリーダーとしての日本の役割にも影響を与える。日本のエネルギー危機は、急激な石油・ガスへの依存拡大を引き起こし、国の貿易収支や競争力に影響を与えている。その他の懸念としては、エネルギー供給の遮断への脆弱性の増加や、公益事業の長期的な持続可能性などが挙げられる。

6)アジア地域の安全保障の基盤としての日本

米国のアジアへの「戦略的な方向転換」から明らかであるように、日本は米国の最も緊密で、重要な軍事同盟国である。しかし、国内に存在する85の米軍基地と3万5千人の米兵の維持を含めた日米同盟への日本の貢献は高額で、不安定な電力供給の見通しが日本の経済再生に悪影響を与える中、政治的・財政的な圧力から、同盟国として地域の安全保障に対する日本の貢献は限られる可能性がある。

3.日米の産業と政府への戦略的提言

1)トモダチ・地域エネルギー連合

米国のエネルギー地域連携 (Energy Communities Alliance)の成功に基づき、情報の普及、良好事例やアイデアを提供し合う、原子力発電所が立地する世界中のすべての地域間ですべてのステークホルダー同士のコミュニケーションを促す、といった地域ベースのプログラムを行う。福島県は特に、ワシントン州ハンフォードとサウスキャロライナ州サバンナリバーの市民と地域連携を行うべきである。このような連携は、原発事故から復興中の福島県民にとって貴重でユニークな情報、支援、そして助言などを与えることになる。このイニシアティブは、より幅広いトモダチ作戦の下で行われるのが、財政的にも行政運営上でもふさわしいだろう。

2)廃止措置と除染に係る共同作業

効果的で透明性の高い福島での廃止措置と除染作業を、国際協力を通して可能にする。福島で必要とされている廃止措置と除染作業は日本のみの課題ではなく、国際機関や世界の原子力産業の密接な協力を必要とする世界的な課題である。日本の当局と協力し、国際社会は迅速に適切な復旧プロセスと生態学的な健康の懸念を正確に反映した目標を定め、説明すべきである。米国は、除染に関する長い経験、日米政府間や原子力産業間での信頼と協力の歴史をもとに、日本の廃止措置と除染作業を補完する点において、特別な役割を果たすべきである。

3)使用済み燃料と放射性廃棄物の保管に関する世界的なリーダーシップ

使用済み核燃料と放射性廃棄物の管理に関する共通の課題について、日本、米国、韓国、そして他の地域諸国間で、共同の解決策を見いだすために重役レベルでの会合が行われるべきである。

このようなフォーラムでは以下が議論されるとする。

l  バックエンドサイクルに関して地域レベルでの解決策を検討する

l  核物質の安全と安定を強化するための重要な段階として中間貯蔵に優先度をおいている米国ブルーリボン委員会での結論を推進する

l  IAEAや他国と協力し、使用済み燃料と廃棄物管理戦略のさらなる実施を可能とする住民参加事例の経験を共有する

4)日米の高い技術水準を維持する

世界の原子力市場の中で、世界の国営若しくは国が支援している競合相手に対する日米の民間企業の競争力を維持させる。技術的な競争力を維持すれば、日本と米国のリーダーシップや、原子力安全、核セキュリティ、そして保障措置において良い影響を与える。

l  包括的で世界的な原子力損害賠償条約の完成。

l  世界的な規制の標準化の促進、特に日米間での実施。

l  原子力エネルギー分野における堅牢で持続可能な人的資源の確保のため、日米間の協力を強化。

l  競争環境の中でも十分に機敏な日米企業間の連携を可能とするような実務的・法的制度の検討。

l  将来の競争市場を規定する可能性があり、長期的な放射性廃棄物処理の負担を減少させるのに究極的に役立つかもしれない革新的な原子炉技術に関する連携の拡大。ワーキンググループメンバーは特に、一体型高速炉のような第4世代技術について議論した。

5)核物質防護条約2005年改正の批准

核物質防護条約(CPPNM)の2005年改正の批准を敏速に行う。同条約は核物質の防護についての最も重要な国際条約である。改正の批准をせず、国内法の整備が遅れていることは、日本と米国の国益に合致せず、世界的な核不拡散と安全保障における両国のリーダーシップの地位を損なうことになる。

6)透明性と国際的な精査を通して信頼向上へ

米国や他国の専門家との活発で透明性のある協力を促し、信頼性が高く効果的な日本の規制制度の育成を行う。国の規制機関と産業経営者のための国際ピアレビュー制度の実施を促す。

7)日米共同エネルギー安全保障

日本と米国の間の共同エネルギー安全保障を促進し、日本のエネルギー安全保障は米国の国益でもあることを明らかにし、地域の経済的、政治的、そして物理的安全保障に導くこととする。具体的な方策は以下の通り:

l  日本のエネルギー供給の選択肢を多様化しながら米国のガス資源拡大へ投資を呼び込むため、米国から日本への天然ガス(LNG)輸出を優先させる。これは米国経済にとっても好条件である外交政策上の優先事項である。

l  革新的なクリーン・エネルギー技術の研究、開発、そして売り込みに関する日米間の協力を支援する。このような技術への動機付けや促進を、日本において重要且つ緊急なものとする。短期的には原子力エネルギーの低下により石炭、ガス、石油の輸入への依存が増加するが、これは、革新的なエネルギー技術に対する日米両国の長期的な投資への緊急性と機会をもたらすことになる。

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モーリーン&マイク・マンスフィールド財団は、優れた公務員、政治家、そして外交官として20世紀を通して多くの主要な国内・国際的な課題に取り組んだモンタナ州の米国議会議員、上院院内総務、そして駐日大使として貢献したマイク・マンスフィールド氏(1903-2001)の功績を称えて創設された財団である。財団は、米国のアジア理解を深め、アジア各国との関係を促進することに力を注いだマイク・マンスフィールド大使と、モーリーン・マンスフィールド大使夫人の意志に基づき1983年に設立された。当財団は、米国とアジア各国のリーダー間のネットワーク作り、政策課題の研究、そしてアジアの国々に関する人々の理解を深めることを目的として、出版活動や交流事業を中心とした様々なプログラムを運営している。当財団の活動は慈善団体、企業、そして個人からの援助に支えられている。また当財団はモンタナ大学のモーリーン&マイク・マンスフィールドセンターを支援している。当財団は、ワシントンDC、モンタナ州ミズウラ、そして東京に事務局がある。

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